死出(しで)の山の裾野で、ぼんやり往来を眺めている。
先へ進むのは気が重い。地獄へ行くのも、極楽へ行くのも、どっちも気が進まない。……みんな、よくもまあ深く考えもせず、自分の執着する行き先へ向かっていくものだ。
まあ、先へ進まなきゃいけないんだけど。いや、進まないという手もあるのか。
こんなことならキリスト教徒になって『ヨハネの黙示録』でも読み込んでおくんだった。新しいイスラエルに行きたい。…聞いた話では、詳しい人がいて、生前は高名な仏教研究者だったのかもしれない。ハデスやカロンという神様が見えるひともいるらしい。
『正法念処経(せいぼうねんじょきょう)』や『往生要集(おうじょうようしゅう)』には地獄絵図の詳細が書かれているという。それを元ネタに、地獄図鑑のような絵本もいろいろ描かれている。描いたのは水木しげるだったか、そんな本も見たことがある。
日本昔話の「地獄のあばれもの」という話も好きだ。元ネタは『地獄八景亡者戯(じごくはっけいもうじゃのたわむれ)』で、YouTubeで見たことがある。医者、山伏、鍛冶屋が、それぞれ自分のスキルを活かして地獄で大暴れする痛快な話だ。
しかし、あいにく自分のスキルはコンピュータ。地獄にその手のものはないらしい。極めて役に立たぬスキル。嘆いてもしょうがない。
初七日法要。つまり七日後から十王裁判が始まる。
…最初に裁くのは、不動明王が姿を変えた秦広王(しんこうおう)。五戒――不殺生戒(ふせっしょうかい)、不偸盗戒(ふちゅうとうかい)、不邪淫戒(ふじゃいんかい)、不妄語戒(ふもうごかい)、不飲酒戒(ふおんじゅかい)――をもとに、善人か悪人かを決める。
その後、三途の川を渡る。
山水瀬(さんすいらい)、江深淵(こうしんえん)、有橋渡(うきょうと)と通り道が分かれているが、通行料の六文銭がない私は最後まで行けないのだろう。
…ならば、いっそこの場に永遠に佇むという手もあるのではないか。
奪衣婆(だつえば)と懸衣翁(けんえお)に服を剥がされ、その後は初江王、宋帝王、五官王、閻魔王と裁きを受け、さらに変成王、泰山王、平等王、都市王、五道転輪王と会う。
彼らは順に、釈迦如来、文殊菩薩、普賢菩薩、地蔵菩薩、弥勒菩薩、薬師如来、観音菩薩、勢至菩薩、阿弥陀如来が、地獄でコスプレして出迎えてくれるらしい。
その前後関係はよく分からないが、どこかで七つの鳥居を抜けると、須弥山(しゅみせん)という世界が広がっている。極楽もそのあたりにあり、下の方には贍部洲(せんぶしゅう)という人間世界だかその下にある地獄だか、とにかくそういう世界が成り立っているとかないとか。それじゃあここはどこだ??
ちなみに地獄は八つあり、それとは別に一つの地獄ごとに十六の小地獄がある。つまり、八大地獄+(八×十六)で、合計百三十六個。1ゲームに登場するポケモンより少し少ないくらいで、なかなか覚えにくい。全部覚えたら地獄博士になれるかな。
まあとにかく、当面は地獄めぐりだけで飽きないくらいの数はある。
剣で刺されるわ、煮え立った糞尿の中に突き落とされるわ、人間の想像力を極限までかき立てたようなグロテスクな拷問の数々で、しんどい限り。というわけでこれから、1つ1つ地獄めぐりしてレポートを書くから、お前もやがて行き着くところ、、乞うご期待。

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