創作|世界分裂教会 -解放-

徒然草2.0
Closeup of wooden christian cross on Bible, god, Wooden cross of Jesus.

「世界・愛・平和・家族・連合・教会からの解放を目指す会」みたいな書き込みを見つけて、実際なんて名前だったのか詳しく覚えていないのだが、そういう集会に参加したことが発端だった。カルト宗教に家族を奪われた被害者の集会というわけだ。

私は”架空の家族”を失ったことにして、その集会に参加したら面白いのではないだろうか?という安易な動機で参加した。ここでいう「面白い」というのは、退屈な自分の人生に、今までにはなかった経験が得られるといった意味であって、なにか深い考えがあったわけではない。

安上がりに、自分の良心が傷まず、罪悪感も感じず、お金もかけず(ここ重要!私はケチで、お金をかけたくない! 所謂つまらない人間だ)、危険を感じることなく安全な立ち位置で楽しめるのではないだろうか。まあ、そんな安全なところから高みの見物をしようじゃないか、というやつは、得てして天罰が下るものだが天罰なんて信じない。でも、私も例外ではない。思いがけず牡丹餅が降ってくることもあるものだ、と信じたい気持ちもある。

さて、ここでは具体的な内容は出せないから、仮にそのカルト宗教を「分裂教会」とここでは呼ぶことにしよう。

というわけで「私」の設定として……家族を失い、それからその分裂教会に入信した……いや、そうじゃないな。家族を宗教に奪われた……ということに行きの電車の中で決めた。

いや、なんかしっかり設定を考えないといけないな。面倒くさいな。そういうの苦手なんだよな。モノを書くのが趣味なのに、ストーリー構成に矛盾があるとか、結構致命傷だが…でも、分裂気質だってことに言い訳すればいいか。

私は嘘をつくのが苦手な性分だ……でもここは、妹が交通事故で亡くなり、親父を亡くした母が世界分裂教会に入信してしまった、ということにしよう。母を救うためにこの被害者の会に参加した。いや、狂信者の母と決別して妹を救うため、ということのほうがカッコいいかな?そいう問題じゃないか。。

まあ、多少あべこべでも、それくらい心身ともに疲労困憊している様子を全面に押し出して、もとより分裂気質なやつで信用ならないと解釈をさせれば、どうとでもなるだろう。

もともと不幸な体質というか、浮かばれない相貌だし、実際に仕事で疲れているし、年甲斐もなく昨晩は自慰に耽って寝不足で疲れている。間違いなく世間から見放された爪弾き者だからあまり気にせず素でいればいい。

無精ひげにボサボサの頭。秋で冬に片足つっこんだ季節に入り肌寒いというのに季節外れの半袖シャツ。いかにも「関わりたくない人」というオーラが出ている。特別な演技をしなくても、ヤバイやつだと思われる素質があることは信じられる……まあ、それが後で思いがけず役立つのだが。

私はその分裂教会の被害者の会場に着いた。

都内にあるホテルの一室で集会は行われていた。駅近ではあるものの、薄暗いビルのエントランスを抜けると、トルネコの不思議のダンジョンに迷い込んだかのように、どこまでも綺麗な縞瑪瑙のような絨毯と白い壁の狭い廊下をくねくねと進んでいった。奥まったところにその会場があった。

そこへ向かう道中にミニテーブルでこしらえられた簡易の受付で、名前や個人情報、それにこの分裂教会の被害者の会に参加した動機を事細かに聞かれた。

会場の受付の人に「個人情報を出したくないのだが」と告げた。しかし、過去に分裂教会の信者が紛れ込んで集会でトラブルを起こしたことがあり、その対策のため、素性の分からない者を厳しくチェックしているとのことだった。なんか、被害者の会を運営するのも大変なんだなと思った。

誰かの紹介なら身分証の提示がなくても集会に入れるそうだが、そうでない場合は厳しくチェックされるという。うーん。さすがに被害者の会とはいえ、よく分からない人の集まりへ、自分の意思で参加しようとしているのだからなんだが、個人情報を出したくない。架空の家族構成や被害ストーリーまで入念に……というか、さっき電車に揺られているときに決めて準備しただけだが、あまり役立たなかった。

ああ…ここまでか、と思ったが、いつも通り少しゴネてみる。

「せっかくためになる話が聞けると思ったのに、身分証を提示しないと話が聞けないなら、最初にSNSの告知文に書くべきじゃないんですか!?」

と、語気を荒げてつっかかってみた。一応、正当なことを言っているつもりだから強気だ。しかし、受付のほっそりとした体型の小綺麗な女性は、あまり悪びれもせず淡々と、「そうですね、失礼しました。でも決まりなので、ごめんなさい」と言った。

渋々引き下がるしかなかった。

パルプンテの巻物を読んだ!…しかし、何も起こらなかった、みたいな。

その様子を後ろで見ていたスーツの男が声をかけてきた。

「どうしたの?」

受付の女は相変わらず、ほっそりとして高身長だが、あまり女としてはまったく魅力的には見えない、その女が事情(わけ)を小声で説明しているようだ。

悪気はないが、自分にとって自分の行動を妨げることをするヒトには、見てくれにケチをつけたくなるものだから、あえてそういう表現をしているだけだ。

ふいに後ろから声がかけられる。

「じゃあ、僕の紹介ってことで入れてあげていいよ」

受付名簿の紹介者欄に、その男は「前川敏夫」と書いた。

「藤崎さん、これならいいでしょ?」

と前川は言った。

受付の藤崎という女も納得した様子で、

「今回は特別ですよ」

と言ってくれた。

藤崎さんはほっそりとした女性で、とても可愛らしい声の人だった。誰からも愛される感じの人なのかもしれない。

さっきまで嫌いだと思っていたが、彼女はルールに則って仕事をして、自分を拒絶していただけなのだ。今は自分を受け入れてくれたという気持ちが募る。

嫌いから好きになる。不思議なものだ。

むしろ、嫌いという拒絶は、好きという受容と表裏一体の情動なのかもしれない。

例えば、宗教は嘘っぱちで信じられないと激しく嫌うことは、宗教は本当のことで信じられて好むことと、実はとても近しい関係にあるのかもしれない。

実際はもっと複雑なのだろうが、人間はそのように神様に造られたのかもしれない。

なんてことを、その時ふと思った。

……私は「分裂教会の被害者の会」と書かれた参加名簿に、「五味川純平」と書いた。

五味川っていうのは……私も詳しく知らないが……知る人ぞ知る物書きのペンネームだが、突っ込む人も少ないだろう?

それにペンネームだとバレても、「実名を出したくなかった」と言えばいいだけだ。

前川はニコニコしながら私に挨拶してきた。

「すみませんね。前に分裂教会の信者が集団で乗り込んできたことがあって揉めに揉めたんで、こういう対応するようになりまして」私は軽く会釈をした。

…そこからさらに入り組んだ廊下の先に、立札のない部屋がある。防犯対策で、トラブルを起こす人間を呼び入れないための配慮なのだろう。

ここがその会場だと前川は言った。

思ったよりも部屋は狭くて、最大で二十人ぐらいしか入れない会場だった。

そこで事件は起きた。

徒然草2.0
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