あの日のことは、まるで昨日のことのように覚えている。
達也、松田、笑美の3人を乗せて、俺が運転する車は小田原を越えた先にある心霊スポットへと向かっていた。
真夜中の山道。街灯もまばらな道路を、車は滑るように走っていく。
後部座席では達也が酒を飲んで、ゲラゲラと笑っていた。とにかくうるさい。
笑美も名前のとおりの女で、やたらとはしゃいでいたが、さすがに我慢できなくなったのか「ちょっと静かにしてよ」と達也をたしなめた。
助手席に座る松田が、前方を指さした。
「次のトンネルを抜けた先が、女の幽霊が出るっていうスポットだよ」
そう言って俺の顔を見た松田が、ふと怪訝そうな表情を浮かべた。
「……えっ?」
その声に反応して、笑美も後部座席から身を乗り出し、俺の顔を覗き込んだ。
「なんかお前、そんなに髪薄かったっけ?」
それを聞いた達也が、さらに大きな声で笑い出した。
松田は続けた。
「なんか顔色も悪いというか、肌がガサガサしてない?」
俺は相手にせず、前を向いたまま答えた。
「暗いし、トンネルのオレンジ色のライトのせいだろ」
それに、もう着いたぞ。ここだ。
俺は慎重にブレーキを踏み、道路脇に車を止めた。
「えー、こんなところで降りるの? 怖いんだけど」
笑美が不満そうに声を上げる。
俺は運転席のドアを開け、車から降りた。
トンネルを抜け、外に出る。
さっきまで腹を抱えて笑っていた達也が、ふと黙り込んだ。
「……お前、なんか急に老けた気がするわ」
「だよね。目の下のクマもすごいし、皮膚もたるんでる」
笑美は笑わずに言った。
助手席の松田は、俺の異変が尋常ではないことに気づいたようだった。
顔から血の気が引いている。
俺は3人の言葉を無視して、ガードレールの下を懐中電灯で照らした。
そこには、誰かが意図的に並べたような石があり、脇には花束が置かれていた。
しばらくそれを眺めてから、俺は3人に言った。
「悪いな。お前らは、俺が運転していた車で事故って20年前に死んでんだわ」
あの日、俺たちは同じようにこの山道を走っていた。
トンネルを抜ける直前、スピードを出しすぎた車はガードレールに突っ込み、そのまま崖下へ転落した。
後部座席にいた達也と笑美は、フロントガラスを突き破って車外へ投げ出された。
松田は息があって病院へ搬送されたが、翌日に息を引き取った。
毎年供養に来ているが、今日こそは成仏してくれ。
俺はひとり静かに手を合わせた。

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