職場へ向かおうと交差点を渡っていて、気がついたら空に浮いていた。
重力から解放されると、こんなにも体が軽くなって気持ちいいものか…。
何の不安もなかった。そのまま吸い込まれるように青空を登っていった。
そしたら急に空が暗くなって、どこを飛んでいるのか分からなくなった。
白く輝く男の人が現れた「あなたは仏に帰依しますか?」
仏様は拝むけど、仏教を信仰しているかと言われればそうじゃないな。
…そう思ったら、男の人は消えていた。
しばらく暗がりのなかを行くと、また白く輝くさっきとは別の男の人がぼぅと現れた「あなたはイエスを信じるか?」
イエスはすごい人だと思うが、信じるかと言うとちょっと違うかな。
そしたら男の人は消えていた。
同じようなことが何度か繰り返された。
後で気づいたことだが男の人はターバンをまいていたり、裸だったりお麺を被っていたり微妙にコスプレしていた。
どれも縁があっても信じるかと言われると”No”になる。
なにせ懐疑論者だ。あんまり面倒なことに関わりたくない。
そもそも死んでまで人に関わりたくない。
(あれ、俺そういえば死んだんだっけ?)
交差点では背後から何か重いものにぶつかられて「くるまかな?」と思ったのだった。
いざ死んでみると生きていたことがどうでもよくなってしまったのか、
すごい過去のことというか違う世界のことだと思えてしまう。
忘れていた。
そんなことより、死んだとはいえ進路を決めないといけない。
何か信じてないと行く道も決まらない。
生きているうちに何か信じておけばよかった。
死んだら無になると思っていたが、そうじゃなかったんだ。
しかし、どこかに行きたいから信じるというのは嘘になる。
嘘はよくないんじゃなかったっけ。
あれ、でも嘘も方便じゃないが嘘をついてもいいシーンもあるんじゃなかったっけ。
哲学者のカントは、いかなるときも嘘はダメだと言っていたかもしれない。
でも、このまま何も信じなかったら一体どういう進路になるんだろう?
急に後悔した気持ちになった。
これは行きたいところに行くシステムに違いない。
最初に仏を信じているでよかった気がしてきた。
ああ、判断を誤った。
全部断ったら一体なにが残るんだろう。
プログラムだったら異常終了でおかし分岐へ進んだらエラーか例外。
たぶんだが、あまり芳しくない結果になるに違いない。
しばらくして、正面に光り輝く男が現れた。
「おまえは死んだら何になると思うか?」
無になるんじゃないか?と思っ…
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