「わざとじゃない。ほんとうに、わざとぶつかったじゃないんだ」
「じゃあ、わざとじゃなければ何をしてもいいのか? 謝れば全部許されるのか?」
「そういう意味じゃないけど」
「だったら、いいだろ」
「よくない! 背骨が折れる技なんて!」
「技を受けるって言ったのはお前だ、また腕を振り回したら俺の顔に当たるぞ」
「そんな理不尽な…背骨が折れるなんて聞いてたら、受けるわけないだろ!」
「つべこべ言うな。観念しろ!」
「おかしいだろ! やめてくれ!」
腰を引いて抵抗した瞬間、相手の体重を全身に感じて、背中の奥で鈍い音がした。
上半身だけが沈み込み、頭と腰が急に近づいたような、ありえない感覚にあった。次の瞬間、立っていられず顔から地面に叩きつけられた。
背骨は、肋骨の下、腰の上あたりから折られたに違いない。激痛が走り、内臓が押し潰されるように暴れ出す。体の中の液体とか物体が、めちゃくちゃに混ざり合っていく気分になる。これは、ただでは済まない。
「うわあ……なんてことを……」
「大丈夫だ。安心しろ」
「何が大丈夫なものか! 背骨が……もう終わりだ……!」
そこで、はっと目が覚めた。
仰向けのまま、枕に顔を押しつけていた。寝る前に背骨を伸ばすストレッチをしていて、そのまま眠ってしまったらしい。それで、背骨を折られる悪夢を見ていたのだ。
夢の中の相手は、柔道をやっていた頃の、あいつだった。背骨を折る技を見つけてしまうなんて、どんな理屈だったのだろう。腰を引いた相手の背骨を折る、そんな前代未聞の技が本当に存在したら、組み技の格闘技はすべて無意味になってしまうだろう。
慣れないことをして変な姿勢で寝ると、妙な「技」が生み出される。…もっとも、それは受ける側として体験するだけで、実際に使えるかどうかは分からない。つまり、費用対効果(?)はかなり悪い。


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