「地球人のみなさん、ごきげんいかが?」
ある日、空に現れた光の巨大な球体が、そんな音声を流した。
出どころは太陽系の外。正式名称《3I/ATLAS》。
地球から見たその姿は彗星のようだったが、実際には全長数キロの巨大な宇宙船だった。
「ちょっとこの辺の銀河で補給先を探していましてね。あまり生命体の文明には干渉しない方針なんですが、あなたがた、なかなか知恵があるようなので……Win-Winってやつですが、どう?」
その言葉に、地球中が騒然となった。
アメリカも中国もロシアも、日本も…ついには国連が総力を挙げて対応にあたることになる。
アトラス船の提案はこうだ。
「我々のテクノロジーの一部を提供する代わりに、宇宙船を動かすための資源を少し融通してほしい」
夢のような話だった。
人類は会議を重ね、「何をもらうか?」が議題となった。
ある者は言った。「無限に使えるクリーンエネルギーを!」
別の者は言った。「対立のない経済システムを!」
またある者は願った。「戦争のない世界を!」
やがて、地球代表の外交官がアトラス側に伝えた。
「わたしたちの願いは、世界をより良くすることです。環境を、社会を、人の心を。」
すると、アトラス船の通信士が淡々と答えた。
『……その夢を叶えることは容易い。
だが、ひとつ問わせてほしい。
自ら創り出そうともせず、外の星から“もらう”ことで進歩して、、
それを“あなたがた自身の文明”と呼べるのですか?』
与えられたものは、ほんとうの意味で手に入れたものにはならない。
その教訓を、地球人もわからないわけではなかった。
通信士の言葉は、地球に沈黙をもたらした。
外交官は言葉を失い、会議場の空気は重く沈んだ。
議題を持ち帰っても、「それでも受け取るべきだ」という者と、「自分たちで歩むべきだ」という者で意見は真っ二つに割れた。
そして、地球は二つに分かれた。
アトラスの技術と文化を積極的に受け入れた“新文明圏派”
そして、あくまで人類の手で歩もうとする“地球純正派”
かつてひとつだった星は2つの、目に見えない線により分断された。
アトラス船は静かに軌道を離れ、こう言い残した。
「ああ……分かっていたけど、やっぱり私たちの存在が彼らに多大な影響を与えちゃうよね。」
その後、人類は新たな時代へと突入する。
“進化”とは、与えられるものなのか。それとも、掴み取るものなのだろうか。
  
  
  
  
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