2076年。私はとうに90歳を過ぎていますが、ボルトテック社のテクノロジーのおかげで、外見も身体能力も60代後半ほどに保たれています。
しかし「人は過ちを繰り返す」。あの大戦争のあと、私は日本を離れてアメリカ西海岸へ渡りました。治安も環境も荒れ果てていましたが、それでも生き延びるためには背に腹は代えられなかった。
しばらくして、より安い土地と放射能の影響が少ない地域を求めてミネソタ州へ移住しました。農業や酪農に挑戦しましたが、土地との相性なのか、どうにも上手くいかずに失敗。それから流れ流れてニューヨーク州へ。そこで一時はホームレス生活まで経験しました。
それでも、昔とった杵柄というやつでしょうか。日本でITをかじっていたおかげで、運良く政府系の日本人チームの仕事に拾われました。生きるとは、結局は縁と運の積み重ねなんだと、この時ほど強く思ったことはありません。
そして転機が訪れました。Vault76のエンジニア枠で“移住者”としてスカウトされたのです。私は人生で初めて、「守られる場所」そして「守りたい場所」に足を踏み入れました。
とりわけ、あの女性の監督官――落ち着きのある声とまっすぐな目をした人でした。強く、聡明で、しかしときどき見せる柔らかい表情が印象的で……お恥ずかしい話ですが、こんな歳になってまさか胸がざわつくとは思いもしませんでしたが、人間とは妙なものです。
(もちろん、Vault内に善人だけが集まっていたとは言いません。どんな組織だって同じです。)
冷凍睡眠へ入る時、私は諦めとも安心ともつかない気持ちで目を閉じました。心のどこかで、次に目を開けた時、あの監督官が迎えてくれるのではないかと、勝手な期待を抱きながら。
しかし――目覚めた時、住人の姿もなく、監督官すらいなかった。
静まり返ったVault76には、機械の駆動音だけが薄く残っていました。私は自分がどれくらい眠っていたのか、一瞬わからなくなりました。ただ、人が今しがたまでそこにいたような痕跡だけが残されていた。
私は外へ出ました。放射能の濃度は思っていたよりも低かったのです。世界は変わっていましたが、完全に死んではいなかった。草が芽吹き、風が吹いている。
90を過ぎた老人が、また新しい世界で冒険をするなんて、若い頃の自分が聞いたら笑い飛ばすでしょう。でも、人生なんてものは、いつだって予定外だらけです。
さて、これからどう生きるか。
——監督官がどこかで生きているのなら、もう一度くらい話してみたい。
そんな淡い期待を胸のどこかにしまい込みながら、私はまたゆっくりと前へ歩き始めることにしました。

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