戯言|日本は権威文化かつ差別文化

徒然草2.0

市民は平等だとか、ジェンダーフリーだとか言われている昨今。そんな中、雑日本史にいくつか気づいたことを加筆していたところ、ふと社会科の教師の言葉を思い出した。

縄文時代や弥生時代の頃、日本は中国から何度か「金印」を授かっている。弥生時代の「漢委奴国王」の金印は現物が発見されており、200年ほど後には『魏志倭人伝』に記された「親魏倭王」の金印も記録上は存在する。未発見だが、魏から送られたことになっている。他にもいくつかの金印が記録に残っているらしい。

これらを受け取るたびに、当時の日本は返礼の品として何を差し出していたのだろうか? おそらく、奴隷などを献上していたのではないか。そうした歴史は確かに存在するが、今回は本題から外れるため深くは触れない。

たとえば室町時代、足利義満も明(みん)から金印を授かり、勘合貿易を始めている。ちょうどこの頃、明の皇帝が没落状態であったため、初期費用(手数料)はそれほどかからなかったようだ。しかし、金印という貴重なものを授かる以上、返報の原則から考えても、何らかの「代償」はあったはずだ。

戦国時代末期には、豊臣秀吉がイエズス会による奴隷商の黙認に衝撃を受け、これを禁じると同時にキリスト教に対して警戒感を強めている。こうした姿勢をもって「日本人の精神」と評する保守派もいる。私自身が秀吉を信長や家康よりも好む理由のひとつでもある。ただ、必要に迫られてかどうかは定かでないが、奴隷制度は文盲の時代から江戸期に至るまで普通に存在していた。

日本の文化水準が高かったことを強調したくなる気持ちはわかる。しかし、そうした「不都合な真実」を覆い隠してはいけない。真剣に情報を集めれば、きっと多くの事例が見つかるはずだ。完全に隠しているわけではないが、「意識的に目をつぶる」あるいは「見ようと思えば見えるのに見ようとしない」姿勢があるのではないか。

田原総一朗だったか、「日本は政治の“権力”と天皇の“権威”を分けた稀有な国だ」と述べていたのを思い出す。幕府が政変を起こしても、あるいは天皇を巻き込んだ政変であっても、当時の民衆や領民は「正しい側」に従うしかなかった。しかし、権力と権威の二重構造があったおかげで、たとえ権力が腐敗・暴走しても、別に存在する「権威」が精神的な支えとなり、人々はどこかで安心していたのではないか。お侍さんが戦を始めても、「お天道様(≒天皇)はいつも通りお空にいる」と、落ち着いて過ごしていたのではないか。

アメリカ人は文明崩壊後の世界、ポスト・アポカリプスの想像を得意とするが、日本人はそれが苦手だ。その理由は、おそらく「いかなる時も天皇が存在していたから」ではないか。

天変地異が起きようとも天皇が存在し続けたことで、国家体制が根本から崩壊するイメージが抱きにくくなった。よく分からない武力集団が跋扈するような混乱を、日本人はあまり想像できない。『北斗の拳』のように、マッドマックス的な世界観を描いた例はあっても、数は少ない。

日本人にとって、戦国時代こそが最も身近な権力闘争の記憶だろう。しかしそれすら、「信長―秀吉―家康」と、あたかも一本の流れで天下取りが進んだかのように語られてしまっている。

鎌倉時代や南北朝の対立なども、個人的には印象が薄い。日本では、「権力の失墜」はあっても「権威の失墜」を想像することが難しい。唯一その可能性があったのは、太平洋戦争に敗れたときだった。しかし、アメリカの采配によって、天皇は「神」から「人」に変えられながらも、権威自体は保持され、今に至っている。

権力と権威の両方が腐敗した結果、日本では「世界征服を目指すような英雄」は育たなかったし、国民の間にもそのような精神的土壌はない。求められていないものは、自然と育たないのだ。仮にそういう人物が現れても、それはあくまで「征夷大将軍」レベルの存在であり、天皇のような「権威」を伴うことはない。

日本には、「英雄が権威をまとう」物語がほとんど存在しない。あっても一時的で、物語の中心とはならない。よって、「権威が喪失することで秩序が完全に崩壊する未来」や、「もしも権威が失われたらどうなるか」というIFの物語を想像し、受け入れる力が育たなかったのではないか。

さらに言えば、権威が常に存在するということは、そこには必ず「影」も存在する。それは端的に言えば「差別」として現れるのではないか。権威がわずかでも残る限り、「ある種の差」もまた残る。

差別は世界中どこにでもあるが、「目に見えない権威」がある社会では、「目に見えない差別」も残りやすい。しかも、これらは無意識的なものであるため非常に捉えづらく、言語化したとしても「気のせい」とされてしまうのではないか。

徒然草2.0
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