昨日、人の行き来が多い都内某所の駅での話。
西口と東口を結ぶエスカレーターは、いつも混雑している。東京の大きな駅はどこもそんな感じのエスカレーターがある。みんな左側に並び、右側は「歩く人専用」として空けてある。
左がこれだけ混んでいるなら、右側の空いているところに立てば、単純に輸送量は2倍になるはずだ。効率はそのほうがいい。理屈ではそうなのに、実際にはエスカレーターに乗る直前でみんなスローペースになり、結局、左側に吸い寄せられていく。
最近では「エスカレーターは危ないから歩かないように」という話が、わりと広く言われるようになってきた。けれど、体感としては、日本社会にまったく浸透していない気がする。
ここ最近、駅で人を待つことが多く、暇つぶしも兼ねて、あえて右側レーンに立ち止まっている。歩いて移動しようとする人を妨害している、と言えば聞こえは悪い。
ただ、そのエスカレーターには標語が書いてある。「エスカレーターでは歩かないでください」とか、「エスカレーターで止まるあなたがカッコイイ」的なやつだ。そう考えると、エスカレーターを設置している側は、少なくとも理念上は私の味方である。エスカレータの設計と運用上でも片方に乗られるよりも2人乗りのステップの場合は2人乗りで乗ったほうが部品が長持ちするとか？聞いたことがある。
右側に乗って立ち止まったさはあまり後ろを振り向かないようにはしているが、歩いてサッと移動したい人にとっては迷惑だろうという自覚はあるし背後の視線が気になる。それでも、「エスカレーターを止まる文化」を根付かせたほうが、日本社会全体のためになるのではないか、という気持ちがある。そんな正義感と、ちょっとしたボランティア精神が合体して、私は右側で立ち止まる。延々と、それをやっていた。
意図してか、意図せずかは分からないが、私と同じように右側に立ち止まる人も現れる。高齢者は、わりと何も考えずに立ち止まることが多い。若者や壮年層でも、意図してなのか、単に空気を読まないのか、ときどき立ち止まる人がいる。
それでも後ろから追い抜こうとする人はいるし、右側が塞がれているのを見て、諦めてそのまま右側に立ち止まる人もいる。
私に喧嘩を売ってくる人がいてもおかしくはない。だが今のところ、喧嘩になったことはないし、他人が口論になっている場面も見たことがない。正直、多少もめてもそれはそれで面白いかな、という気持ちがないわけではないのだが、そこまでには至らない…ということは喧嘩っ早い人でも、エスカレータでは止まるほうがいいというルールを知っているってことなんだよな。仮に文句を言われたら、「そんなに急いでいるなら、階段をダッシュすればいいのでは？」というスタンスで返せば、相手はそれ以上何も言えないのでは。
それにしても、日本人は本当に律儀だ。左側にきちんと寄り、全体としては非効率な状態を、「習慣」だとか「常識」だとか「マナー」だとかとして受け入れている。
一度根付いた行動を変えるのは難しい。とはいえ、変えていったほうがいいのではないか、とも思う。もっとも、私自身も何も考えず、右側が空いていても左側に並ぶことはある。特にルールがよく分からない駅では、無難にそうしてしまう。だからこそ、もっと大々的に、「大きな文字で」「エスカレーターでは歩くな！」と書いたルールを、見えるところに貼り付けてほしい。
つーわけで、何が言いたいのかというと、同調圧力がどうとか習慣がどうとかはさておき、みんな私のように「行動して、エスカレーターで立ち止まる文化を根付かせようよ」という話である。安全性は上がり、輸送効率も改善し、余計なストレスや無言の圧力も減る。足腰に不安のある人も安心して使えるし、エスカレーター本来の設計思想にもかなっている。理屈としては、これ以上ないくらい合理的だ。
結局のところ、ルールや標語を眺めているだけでは何も変わらない。だから私は今日も右側に立ち止まる。小さな違和感を現場で積み重ねていくしか、習慣を更新する方法はない。
コメント