東京都の町はずれで一人暮らしをしていた頃の話です。
夜中に突然、呼び鈴が鳴りました。
ネットサーフィンを楽しんでいた私は急な来訪者に興が冷めてしまいました。
こんな時間に誰だろう「ああ面倒だ」と思いながらしぶしぶドアを開けると…
青白い顔の若い女が立っていて「受けとってほしいものがあるんですが」と言ってきました。
女性の背後には大人の人間がうずくまったくらいの青いビニール袋が置いてありました。
(げっ、なんだこれは!ヤバい!関わりたくない)と思った私は、
「うちはモノがいっぱいあって散らかっているので、そのサイズのものは入りません」と、
もっともらしいことを言って逃れようとしました。
女性は「それでは仕方がありませんね」と言って帰って行きました。
私はホッとして胸を撫でおろしました。
それから数日経ったある日のこと。
その女性のことは忘れていたのですが、また夜中に呼び鈴が鳴りました。
(またあの女の人だ!)と直感的に思いましたが電気もついているので、居留守や寝たふりも使えません。
仕方なくドアを開けると、今度は小学生の子供くらいの大きさの袋をガッシリと抱えて立っていました。
「これを受け取ってもらいたんですが」と言われて私はすかさず「いやいや、こんな大きなものは無理ですよ」と、
困った顔をしてみました。
すると、女性は「だったら、どれくらいの大きさならば良いのですか?」と言いました。
「いや、サイズの問題じゃなくて…」私が断ろうとしているのを感じとったのか、
みるみる女は悲しみと怒りが入り混じった怖い顔になってきて、とても断れる雰囲気じゃない感じです。
本能的に「ヤバい!」と私は思って、また嘘をつきました。
手で小さく楕円を描いて「まあ、こんくらいならいいですけど(玄関の脇に置いておくんで)」
女性はニコっと笑って「では、また来ますね」と言って帰っていました。
次きたら預からないといけないな…後が無い、ヤバいなあと思いました。
その場限りの体のいい嘘をついて、引き延ばし工作する性格は直さないといけないと思いました。
それから数日したある日のこと、また夜中に呼び鈴が鳴りました。
(うわっ!また来た!)私は覗き穴から外を確認しました。またあの女性です。
ビニールに包まれた赤ん坊くらいの大きさの何かを抱きかかえている女がいました。
(もう、断られないし、あれを受けとらないといけないのか…)
仕方がない。ヤバいものだったら、すぐに警察に届けよう!
意を決してドアをあけました。
「お願いします。これを預かってもらいたいんです」と女は小袋を私に差し出しました。
意を決して尋ねました「ありがとうございます。これは何ですか?」
「実家でとれた琵琶です。たくさんあって食べきれないのでぜひ受け取ってください。美味しいんですよ。」
くだらない思いこみで損をするって、なんて怖いんだろうと自分の先送りぐせを呪いました。
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