ネタバレあり。
女が山の中を、二人のマスクをした男に追いかけられている。逃げ出した女は、”父”と”母”に捕まって殺される。「家族は何よりも大切」なのに、逃げることが悪なのだ。
—フィクションより事実に近い映画—
…というだけあって、わざとらしさがなく、俳優の演技だけでひたすら視聴者に“見せてくれる”のがいい。個人的には、すごいおもしろい部類に入る怖い系ではないホラー系映画。疑似家族を強いられて、”姉”を演じることに興味がなければ面白くないだろうけど「ファミリー」ものホラーが好きだ。アダムスファミリーとかではなく、あくまで「家族」という概念をモチーフにしたホラーには興味があるので、直感に従って面白そうだと思って見たら、案の定おもしろかった。
捕まった女は、その家の”父”に「娘」を演じるように命じられる。二年間、娘を演じれば家に帰れるという。”母”に食べ物を与えられ慰められる。”父”は息子のために女に”姉”を演じさせたいらしい。”母”も本当の息子=”弟”の母親ではないようだ。弟は油絵を描き、母はバイオリンを弾く。”父”は弟を家に閉じ込め、教育しているらしい。女に本を読ませ、”従える”か確認する。(以後、女は姉、息子は弟と表記する)
父「外の世界は腐敗している」
姉「…私が助けます」
弟が姉の前でボードゲームをする。母がこっそり話しかけると父に注意される。「秘密は嫌いだ、みんなの前で話せ」と言われ、若干の威圧的な態度だけでヤバさを演出する。へたな不気味さの演出や音響、血なまぐさい描写は不要だとわかっている。
弟「姉さんが出ていくたびに、僕は一人になる。ずっといてほしい」
ボードゲームの動かし方を間違えると怖い表情になる弟。息子も結構”父”に似てサイコパスちっくでヤバい。本当の父親と息子なのだろう。わざと人種別にしているのは少しわざとらしいが、それぐらいは許容範囲だ。
姉「悪意はある。まやかしの現実。客観的な事実はある」
父「外に秩序があるか」
弟「よく分からないや」
父が外の世界は危険だと弟に教えるのを、聡明な姉は必死に抵抗する。しかし楯突いてもいいことなし。
父「あの子を毒するな、私が話したことを忘れるな」
女「私は貢献しようと」
男「うぬぼれるな」
男「今日の間違いから学ぼう」
目隠しされ、水を掛けられる罰。
弟のベッドの下に、歴代の姉の写真を見つけて涙を流す姉。
物語をつくり、弟と姉で発表する。ケンタッキー州へようこその謎ダンスを踊り、怒り出す父。母はドサクサに紛れて逃亡。弟が父を撲殺して姉は無事逃亡。
父は息子思いで、家族を大切にしている。息子も父の教育を受けたせいで心は不安定だけど、根は悪くなさそう。母も姉と同じで囚われの人。つまり、この映画、実は悪人がいない。
この父が人さらいで疑似家族を強いるから悪人だと思う人もいるだろう…まあそれはそうなんだが、この人は条件付きで悪人なだけで家族思いの面はあるし、一応の信頼関係を家族同士で築いている。結局おかしいのは、この父が「家族」という物語に囚われていることだけだ。
…ふと考えてしまったのだが、、もし私もあの男のように、見知らぬ人々を無作為に集め、家族の役割を演じさせたらどうなるだろう?。最初は実験のつもりでも、だんだん慣れてしまうのではないか。本物の家族なんてなくて、疑似家族も本物と変わらない。…その果てには何が待っているのだろう。やっぱり破綻するのだろうかと思うと少し悲しいが、あらゆる家族が破綻する可能性があるし、特に家族も擬似家族も変わらないのかもしれない。
どっから息子とその姉とその母をつれてこようか。
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