創作です。
(というか今日見た、ゴミ捨て場で怪物に出会った悪夢の話を、少し膨らませた)
プロローグ
荒廃した未来の日本、横浜の海浜地区は、かつての工業地帯や日産スタジアムは面影を残しながらも、腐った海と異形の生物が跋扈する「封鎖区域」となっていた。
だが、人は生きなければならない。
どれほど絶望が蔓延しても、腹は減る。
俺と弟の隼人は、日雇い労働者としてこの腐海で日銭を稼いでいた。
鉄の棺桶と血の雨
辰巳から乗った労働者用のボロバンが錆びたゲートを越える。そこには、崩れたかつてのN社の本社屋、無人のスタジアム、そして静かに打ち寄せる汚染海。
我々の仕事は単純だった。
――打ち上げられた異形の死骸を「コンテナ」と呼ばれる鉄の棺桶に詰め込むだけ。
カブトガニほどの甲殻生物、翼のような鰭を持つエイ型の個体、見たこともない透明なゼラチン質の巨大生物。それらを押し込みながら、俺たちは見つけてしまった。
ひときわ不気味な死骸。人の顔に似た部位があり、腹のような部分が僅かに蠢いていた。
「……おい、これ……まだ、生きてるんじゃ――」
その瞬間、背後で血しぶきが上がった。
仲間の一人が胸を裂かれ、声も出せずに崩れ落ちた。
銃声はなかった。ただ鋭利な何かが飛来したような傷だった。
騒然とする現場。
直後に現れた防護服の部隊が、彼の遺体を素早く車に押し込んだ。
仕事の後、俺たちは雇い主に無言で書類を突きつけられた。
――「本日目撃した全てを外部に漏らさないことに同意する」
震える手でサインをしたが、心の震えは止まらなかった。
捨てられた基地と奇妙な生き物
翌日、俺たちは危険な選択をした。
横須賀からさらに南下し、立入禁止区域に指定されている旧海軍基地の先にある、廃棄物投棄場へと潜り込んだのだ。「政府は何かを隠している。確かめなきゃいけない」そう言ったのは隼人だった。
崩れかけたフェンスを抜け、俺たちは”それ”に出会った。全長五メートルはあろうかというヌメりとした存在。太く大根のような体躯に、小さな突起。突起は開き、まるでラフレシアのような口腔が現れ、ゴミの山をゆっくりと飲み込んだ。
「……動いてる」
そのとき、何かが俺たちに飛んできた。銀色に光る刃のような何か。
俺は咄嗟に隼人を突き飛ばし、自らは肩を裂かれる。
背後には、無音で迫る別の存在。
人か生物か判別できない影。
死を覚悟した瞬間、誰かが援護してくれた。
「立て! 今は逃げろ!」
見覚えのない顔の元兵士風の男が、火炎放射器で影を追い払った。
彼もまた、政府に捨てられた人間だった。
地下施設へ
日が落ちた後、俺たちは再び彼と、そして他の元労働者たち、逃亡兵、元研究者などの少数チームと合流した。
皆、何かに気づき、逃げ、そして隠れていた。
「地下に“音量”がある。あらゆる災いの中心だ」
そう語る男に導かれ、俺たちは横浜地下にある旧研究施設へと向かった。
そこには生体兵器の開発記録が残り、”被験体KH−13”と呼ばれる巨大海洋生物の痕跡があった。どうやら汚染海にいる異形たちは、核戦争後に暴走した軍用生物の成れの果てらしい。
地下深く、俺たちは最終的な敵と対峙することになる。
それは人知を超えた生き物で、怒りと悲しみ、怨念を凝縮したような存在だった。
人の声のようなものを発しながら、次々と仲間の精神を蝕んでいく。
だが、俺は知っていた。
弟も、俺も、もう失うものはなかった。
それでも生きて、何かを未来に残さなければならなかった。
最終章:赫き光
激しい死闘の果てに、俺たちは奴を倒した。
爆薬ではなく、“記憶”を流し込んで。
かつてその生き物に関わった研究者の遺志、怒り、そして愛をその体内に読み込ませた。
断末魔と共に爆ぜるように崩れ落ちる異形。
静寂。
――そして、空が染まった。
鈍く濁っていた空が、一瞬だけ朱に染まった。
それは太陽の光ではない、でも確かに光だった。
魂が少しだけ救われたような、あたたかい光。
隼人がぽつりと呟く。
「……まだ、生きられるな」
俺は頷いた。
荒廃した世界に、確かに小さな“希望”の芽が生まれたのだ。
エピローグ
数ヶ月後、かつての海浜地区の一角で、子供たちの声が響いていた。
瓦礫の上に作られた小さな仮設の教室。
黒板にはこう書かれている。
「未来は変えられる。誰かがあきらめない限り。」
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