戯言|キャベツの芯を食べる男

徒然草2.0

最近、俺はキャベツの芯ばかり食べている。
理由は特にない。出されたものを残さない。それだけだ。

子どもの頃からそれが当たり前だった。給食は残すな。好き嫌いを言うな。
食べたくなくても、腹が一杯でも、息を止めて飲み込め。
固い米も、塩辛いおかずも、焦げたパンも、腐りかけの果物も例外じゃない。

残さず食べる。それが「ちゃんとした人間」の条件であり、俺の美徳だった。

だからキャベツの芯も食べる。ブロッコリーの芯も薄く切れば何とかなる。
栄養があるのかは分からない。心が満たされる食事とは言えないかもしれない。
だが、昔からのルールは守っている。

ある日、妻がキャベツの中から芋虫を見つけた。黒っぽい緑色で、ぬめっとしている。
調べても正体は分からず、たぶん蝶ではないらしい。蛾か羽虫か何かの幼虫だろう。

「気持ち悪いね」と言いながら、妻は捨てなかった。

それ以来、芋虫は虫かごの中で、キャベツの柔らかい葉をもらってかじっている。
瑞々しく、甘そうな部分だ。俺は相変わらず、キャベツの芯を食べている。

いつの間にか、家の中の序列ははっきりしていた。

一番上が芋虫。次が妻と子。

俺は最下位で、芯をかじっている。

誰かが決めたわけじゃない。
ただ、俺が何も言わなかっただけかもしれない。

最近、ハムスターを買ってきたそうだ。柔らかいニンジンとキャベツを食べている。

俺はニンジンの皮とキャベツの芯をゴリゴリと噛み砕く。

「次はモルモットもいいね」「ミニウサギも欲しいな」

柔らかい部分の需要は、増える一方だった。芯は、自然と俺のところに集まった。

ある日、気がついたのだが芋虫はいなくなった。
成虫になったのか、死んだのか、誰も気にしなかった。
キャベツは、いつも通り減っていた。

夜、眠れない日が増えた。理由の分からない苛立ちと、涙。
俺は何をしているんだ。誰のために、何のルールを守っているんだ。
俺が人生で守りたいのは、そんなことだったのかな。

その夜、夢を見た。

柔らかいキャベツの葉を噛んでいた。
白いティッシュの上で、体を丸めて芋虫のようにゴロゴロしていた。
何も求められず、何も我慢しなくていい。

朝、食卓にはキャベツがあった。
柔らかい葉は小動物たちの皿に分けられ、芯だけが一つ残っていた。
誰もそれを取らなかった。やがて、片づけられた。

虫かごは空のまま、新しいティッシュだけが敷かれている。

そこにも、もう何もいなかった。

徒然草2.0
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