石川さん(仮名)が千葉の浜辺で不思議な生き物を2匹拾ってきた。釣りの帰りに見つけたらしい。
手のひらより少し大きく人の顔ほどのある正三角形の平たい浅黒い物体で、ヒトデか何かのようだが、ヒトデよりも少しぶよついている。
なんとか類とかケイソク類ではないか?(石川さんの話をよく聞いていなかった)の一種だと言っていた。
そいつが恐ろしいのは魚の切り身を乗せておくと、全身から黄色い触手のようなものを出し、養分を吸収しているらしい様子を観察できることだった。
まあでも海は広いし私が知らないような生物がいても不思議ではない。こんな気色のわるい生物もいるものなんだ、とその時は思っただけだった。
生きているなら捨てるわけにもいかないし、少し大きいのを石川さんが持ち帰り、少し小さいのをうちにおいておくことにした。
洗面器に沈めてお風呂場の前にとりあえず置いておいた。殆ど動きはないが、たまに魚の切り身をあげるだけなら飼いやすい。
昔から変な生き物を飼うのが趣味だったので、特に違和感はなかった…だから、わざわざ石川さんがウチまで運んできたのだろう。
10日ほど毎日魚の切り身を揚げ続けたら三角形から四角というよりひし形に変わっていった。
さらにトゲのようなものがあるので、星型やさらに六芒星のカタチになっていくらしい。成長が早い。
石川さんから日中にLINEがきていた「あの生き物まだいる?」「ちょっとヤバい」と2つメッセージのふきだしがついてる。
なにかあったのですか?と聞いたが既読にならなかった。
翌日、その大きなヒトデのような生物の中央に割れ目ができていた。
人間の口のようでもあるし目のようにも見えた。翌日に見たら前日よりもずっとはっきりしていた。
また周りにトゲのようなものができていて、ちょっと気色悪い形状になっている。
石川さんはこのことを言っていたのかもしれない。LINEのメッセージは相変わらず既読になっていなかった。
仕事や釣りに忙しい人で、1,2日くらいメッセージを見ない人だったから違和感はなかったが、流石に嫌な感じがした。
「ウチのあの生物は気味悪い形になってきました」「そちらはどうですか?」
翌日、その生き物はさらに大きくなっていた。魚の切り身の1つや2つで急に大きくなるはずがないのだが。
形も気味悪いが異常なほどに成長が早いことが気になった。
もしかしたら今まで食べていた栄養をフルにつかって体組織が膨張しているのかもしれない。
だったら急に大きくなっても不思議ではない。
洗面器では手狭になったので、しかたなく風呂桶に入れ替えて、さらに鮭の切身をのせておいた。
わが目を疑った。
ヒトデのような生物の中央にある割れ目が開いて、のっそり動いたかと思ったら一瞬で飲み込んでしまった。
鮭の切身が自分の手指だったら一体どうなっていたことか?これは危険な生物なのではないだろうか?
石川さんに電話したが連絡がつかなかった。
ただこれだけ食いっぷりがいいともっとエサを上げたくなるのが親というものだろう。
私はすっかりその生物に魅了されていた。
ワクワクしていた私は冷凍庫から業務スーパーで買ったブロイラーのもも肉をレンジで解凍して、風呂の中にいる奇怪なヒトデに向かってほおりこんだ。
のっぺりとさっきよりも速く動いて、もも肉を骨ごとカラダ中央の口でそいつが飲み込んだかと思うと、バリバリと体内で砕ける音がした。
しばらくもぐもぐ動いていたが食べ終わったのか、パカと次の獲物を待つかのように口が開いた。プロビデンスの目のようにも見えた。
このまま大きくなって手に負えなくなったら、ちょっと危ないかもしれない。
今のうちに誰かに相談しておいたほうが良さそうだ。石川さんとは連絡がつかない。
また翌日に見たらさらに大きくなっていた。風呂場の横に立てかけてあったデッキブラシの反対側でその生物を突き刺した。
そのまま縁側から庭の隅まで持っていって土をかぶせた。
ヒトデのように再生能力が高くても、これなら死んでしまうだろう…。
よく分からない生き物を育ててしまった”親”として、最後に始末するところまでが”親”の責任のような気がしたので、ほとんど衝動的に処分してしまった。
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