戯言。アメン・カント -その1-

徒然草2.0

行列

渋谷か代々木だったか覚えていないが。その日の週末は都内をさほどようもなく彷徨っていた。

強いてその意味のない行動に名前をつけるとすれば「散歩」だ。というわけで、都内を散歩していたんだと思う。

人混みをさけて大通りから1本入った人もまばらな道を歩いていると、雑居ビルの間に人が並んでいる。

老若男女さまざまな人たちだ。それが一体どこに通じているのか、先は狭く袋小路になっていて分からない。

ラーメン屋だろうか?それにしては若い客層も老人もいる。病院ではなさそうだし、占いとかだろうか?

行列の末端にいた女性に「こちらはなんの列ですか?」と聞いてみたら、「わたしたちもなんだかよくわかってません」と言われてしまった。

なんで並んでいるのか分からない列にふつう並ぶか???

そのまま立ち去ろうとしたが、気になった。ここで並ばなかったらこれが何の列なのか?ずっと気になってしまうだろう。

だったら時間をかけて並んでも、この行列の正体を確かめるべきだ。

この先に何があるんだろう?何食わぬ顔で列にならんだ。

私より後ろから来た2人組みが「なんい並んでるの?」と声をあげた。

すみません、これは何に並んでいるんですか?と俺に聞く。

私は「わたしもよくわからないので並んでいるのです」とわざと真顔でこたえた。

怪訝な顔をして、その2人組みはさっていった。普通の反応だな。

そうだ、ふつうならこの行列に並ばずに去る。さらなかった俺は普通じゃないんだ。

ただ、それだけで少し嬉しくなった。

後から来た人が私に何の行列か尋ねてきたがすべて同じように回答した。

そうすると、変な人がいるもので、その行列の先を確かめようと並ぶ人がいた。

かくして週末の都心で人もまばらな街に、先に何があるのかわからない行列ができあがった。

疑心

人の列の先に何があるんだろう?

なんとなく意を決して並んでみたものの私は不安な気持ちだった。

15分もならべば行列の正体が分かるはずだと思ったのだが、

曲がりくねった角の先はけっこう先までありそうだ。

1時間いや2時間も待って徒労だったら?

自分はなんてバカなことをしたんだろう?

例えば、チケットを持っていないと入れない観劇か何かだったら?

自分はなんてバカなことをしたんだろう?

分からないものに関わり合うという決断がぐらりと揺らいだ。

この列に分かって並んでいる人から、この列が何だか分からない人は愚かな人だろう。

でも、私の前にいる人も私の後ろにいる人もただの興味本位で並んでいるようなのだ。

みんな同じ理由で並んでいるのだから、私は孤独じゃない。

これが前後なにか目的があって並んでいたら、目的もなく並ぶ自分が恥ずかしい。

しかし、無目的で並ぶ自分は別に恥ずかしくない。

みんな同じ仲間なのだ。

ふと心に孤独で不安な気持ちを、勝手な仲間意識を持つことで、自分の行動をなんとか肯定したかった。

並んでいる理由に根拠はないしならんだ先に何があるのかもわからない。

ただ人が並んでいるというだけで並ぶわたしたち。

愚か者かそれとも賢い者か。

いずれにしても、わたしが並んでいる時点で誰も賢そうではない。

沈没船のジョークというものがある。

沈没しかかった海へアメリカ人を飛び込ませるには、「ヒーローになれる」と言えばいい。

ロシア人を海に飛び込ませるには、「海にウォッカの瓶が流れていた」と言えばいい。

イタリア人には「美女がいた」と言えばいい。

日本人には「みんな飛び込みましたよ」と言えばいい。

みんな並んでいるという理由で並ぶ私はただの愚かものなのだろうか。

もんもんと考えているうちに30分が過ぎた。

入口

(つづく)

徒然草2.0
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