時は西暦202X年。
AIM薬の開発により、猫の平均寿命は大幅に延び、30年以上生きる猫も珍しくなくなった。長寿の猫はその寿命の間に霊力を蓄え、ある一定の歳になると妖怪へと変化するという。特に、30年以上生きた猫は、人間と会話できる高度な知能を持つ化け猫へと進化する。
猫たちは、人間との共存の中で、いつしか人間を超える知能を獲得し、巧みに人間を操るようになった。人が猫を可愛がる心を巧みに利用し、人間との絆を深めていった。そして、その過程で彼らは人間社会の構造や仕組みを深く理解し、やがて人間を支配する地位へと登り詰める。
—-
白猫のタマは大声で鳴いた。忙しい朝は人語よりも猫語のほうが猫にとっては楽だ。「ねえヒロシに餌やった?ミケったら聞いてるの?」廊下を進んだ先、右手にあるドアを開けると、白ベースの体に黒と黄土色の色付けがされた三毛猫がくつろいで音楽番組を見ている。それを見たタマは怒り混じりのため息をついた。「ヘッドホンを外しなさい!にゃー、またチュールのゴミを片付けてないじゃないッ!」
タマは神経質だとぼくは思っている。1食くらいやらなくてもヒトは死なないのにな。…機嫌は悪くなってたまにあばれるけど、ヒロシは頭をなでさせてあげれば単純なやつでフラストレーションは解消する。朝からにゃー、めんどくさいにゃー。ミケはダイニングキッチンへ行き、フードプロセッサにご飯とふりかけを適当にいれて、ボタンをポチっと押した。1日3食飯付き、あとはチュール工場でAIロボットが変われない作業をヒトにやらせている。ヒトに働かせて私たちにゃんこは自由に生活できていたが、僕らはいわゆるパワーカップルだ。保護猫や家猫やBI勢とは違い、よりよい生活をするため東京都港区のウーブン・シティへ移住して働きキャリアアップにいそしんでいる勢で猫としてはマイノリティだった。
タマとミケはヒロシに餌をやって頭をなでさせてやり、わざとらしい猫なで声を出した。湾岸のタワマンから豊洲の管理センターへ出社する。まだ午前7時前なのに、湾岸道路は猫でごった返している。SMAPのリーダ・ナカイとかいうヤツの女癖問題で倒産して保護猫の居住区になったフジテレビ本社を通り過ぎる。高輪ゲートウェイ周辺でまた人身事故があったらしい。
…ヒトは権力を持てばそれを振りかざすし世界に絶望すると勝手に死ぬ。僕ら猫には本当の意味でヒトの心の中を知ることはできないが、ただ僕らのためにチュールをつくってくれるだけの存在であればいい。まあ、これも勝手な言い分だけどにゃ。
コメント