夜中に目が覚めて、トイレに行こうと廊下を歩いていたら、リビングに知らない男がいた。ソファに、ぬっと座ってこちらを見ている。
「え?」と思ったけれど、不思議と怖くはなかった。寝ぼけていたせいかもしれない。
男はまったく動かない。トイレを済ませて戻ってきても、まだ同じ姿勢でこちらを見ていた。
そういえば寝る前、妻が「不倫相手を家に隠す」っていうショート動画を見ていた。
そのせいか、なんとなく「あれ、不倫相手かも」と思って聞いてみたら「そんな感じです」と、男は素直に答えた。
妻は部屋で寝ていた。起こすのも面倒だったので、そのまま出勤した。するとその夜も、また男は現れた。毎晩、同じ場所にいた。
妙に話が合った。雰囲気も、声のトーンも、どこか自分に似ていた。選挙の話をふってみたら、「与党は負けるけど、あの野党と連立を組んで……」と、妙に的を射た分析を語る。「コイツ、意外とデキるやつかもしれない」と思った。
でも、たまに変なことを言った。意味がよくわからなかった。こちらが理解していないだけなのかもしれないけれど、深く聞いちゃいけない気がして、いつも流した。
ある晩、男が言った。
「地下アイドルの子、連れてきていいですか?」
「いや、ダメだろ普通に」と返すと、それきり、男は現れなくなった。
それからずっと考えている。
あのひとときは、楽しかった。
地下アイドル、許してやればよかったのかもしれない。
でも、なんだか、自分の居場所が取られそうな気がして、怖くなってしまった。
あれは幽霊だったのか。
それとも、俺の魂が分裂してできた何かだったのか。
もしかしたら、本物はあっちで、俺のほうが偽物──とか?
いや、あまり深く考えるのはやめておこう。
最近、色々と「呼び寄せる方法」を調べていて、ひとつ気づいたことがある。
家の前に、鳥居とか魔法陣みたいな印を描いておくと、たまに“変なの”が入ってくるようになる。
最初は小動物だった。猫とか、鼠とか。でも、しばらくすると、人間の形をした”何か”も来るようになった。
気になる人は、試してみるといい。ただし、基本的にヤバいやつが多い。
……そういえば俺も、あの鳥居のシールを見つけて、ふらっと入ってきたんだった。
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