創作|家の中に知らない男がくる件

徒然草2.0

夜中に目が覚めて、トイレに行こうと廊下を歩いていたら、リビングに知らない男がいた。ソファに、ぬっと座ってこちらを見ている。

「え?」と思ったけれど、不思議と怖くはなかった。寝ぼけていたせいかもしれない。

男はまったく動かない。トイレを済ませて戻ってきても、まだ同じ姿勢でこちらを見ていた。

そういえば寝る前、妻が「不倫相手を家に隠す」っていうショート動画を見ていた。

そのせいか、なんとなく「あれ、不倫相手かも」と思って聞いてみたら「そんな感じです」と、男は素直に答えた。

妻は部屋で寝ていた。起こすのも面倒だったので、そのまま出勤した。するとその夜も、また男は現れた。毎晩、同じ場所にいた。

妙に話が合った。雰囲気も、声のトーンも、どこか自分に似ていた。選挙の話をふってみたら、「与党は負けるけど、あの野党と連立を組んで……」と、妙に的を射た分析を語る。「コイツ、意外とデキるやつかもしれない」と思った。

でも、たまに変なことを言った。意味がよくわからなかった。こちらが理解していないだけなのかもしれないけれど、深く聞いちゃいけない気がして、いつも流した。

ある晩、男が言った。

「地下アイドルの子、連れてきていいですか?」

「いや、ダメだろ普通に」と返すと、それきり、男は現れなくなった。

それからずっと考えている。

あのひとときは、楽しかった。

地下アイドル、許してやればよかったのかもしれない。

でも、なんだか、自分の居場所が取られそうな気がして、怖くなってしまった。

あれは幽霊だったのか。
それとも、俺の魂が分裂してできた何かだったのか。
もしかしたら、本物はあっちで、俺のほうが偽物──とか?

いや、あまり深く考えるのはやめておこう。

最近、色々と「呼び寄せる方法」を調べていて、ひとつ気づいたことがある。

家の前に、鳥居とか魔法陣みたいな印を描いておくと、たまに“変なの”が入ってくるようになる。

最初は小動物だった。猫とか、鼠とか。でも、しばらくすると、人間の形をした”何か”も来るようになった。

気になる人は、試してみるといい。ただし、基本的にヤバいやつが多い。

……そういえば俺も、あの鳥居のシールを見つけて、ふらっと入ってきたんだった。

徒然草2.0
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