創作。政府の闇バイト。

徒然草2.0

金が無いので、ネットで見つけたバイトに応募した。もちろん闇バイトみたいな怪しいやつじゃない。俺もそこまでバカじゃない。誰でもできると書いてある、イベントスタッフの派遣だ。これが高単価で、時給2500円。大手の人材派遣会社パソノが掲載している。

スマホから連絡先などを送信したら、すぐに連絡がきて翌日面接へ行くことになった。親も真っ当な会社の仕事なら安心だと喜んでいた。本当は正社員がいい、と嫌味を言われたが、これまでのように何もしないよりはましだと思っているのだろう。…早い話が諦められている。

面接では、どのように働きたいか?と希望する勤務地など、普通なことを聞かれた。とにかく俺にはお金が必要だから一生けんめい働くと伝えたら「そういう人を待っていた!」面接官は終始にこやかな様子で感触もよかった。その面接官はふと急に神妙な面持ちになり「もっと儲かるバイトもあるけど?やる?」わたしはすぐにうなずいた。

面接官が誰かに連絡している。しばらくして、その会社の役員を名乗るおじさんを呼んできた。

この人も優しい顔というか無害風だがやけた顔の男だ。2,3分軽く話をした「この会社は自由に働きたい人のためのものだ」とか会社の理念を語っていた。他にもいろんな話をしたが、あまり覚えてない。「金持ちになることも、貧乏することも自由」という話をしていた。あとは「生きるのも自由だし死ぬのも自由」と言っていた。「すべては自己責任だ」とも言っていた。自由という言葉が大層好きらしい。

数日後、場所は詳しく言えないが都心の料亭へ行くように言われた。面接の時に設定したシグナルという発信元が分からないアプリから連絡がきた。親や友人にも余計なことは喋らないように言われている。

シグナルでのメッセージのやりとりで食べたいものを聞かれたので、こうりゃんが食べたいと言っておいた。高粱(こうりゃん)というのは家畜の食べ物で、食糧不足の時は人も食べる穀物の一種だ。参考「まずいことで有名な戦前の代用食「コーリャン飯」を入手して食べてみたら全然悪くなかった…どの作物も品種改良が進みすぎてもはや当時の味の再現が難しい」最近Webで見かけた記事に、昔のこうりゃんの味が今は再現できないと書いてあって妙に気になった。

あまりにも不味くなくて食べられないものだが戦時中に飢えた時にはそのまま食されたが、今のこうりゃんは品種改良がされて美味しくなったそうだ。

入口にいた男に派遣されたことを伝えたら、料亭の最も奥にある部屋に通された。しばらくして黒いロングコートをきた男がきた。淡いブルーのマフラーをとった。マフィアちっくな帽子を斜めに被っていたが、仲居さんに渡している時にボルサリーノというブランドだと言っていた。

その男と2人にしては広い部屋で飯を食べた。「お前こんな飯でいいの?黒毛和牛とかもあるけど?」大きめの茶碗にチャ色のご飯のようなものがのっている。たぶん俺が頼んだこうりゃんだ。自分が所望したものだから、こうりゃんのみに箸をつける。味はよく覚えていない。まずいというほどでもないが正直あまりうまくはなかった。「今まで何してたんだ?」と身の上話をした。とにかくお金が欲しいこと。住民税の督促がきて支払わないといけないこと。それで働きたいと言った。あとは、どうせ働くなら六本木とかおしゃれなところで働きたいっすね、というような話をした。「若けぇうちはそうだよ。自分のやりたいことを絞り込まないといかんな。だがなんとなく儲かりそうとか危ないし、なんとなくカッコいい仕事は給料安いよ」と闊達に語る、とてもいい人そうだった。

しばらく後から、また整った白い長髪の男が颯爽と部屋に入ってきた。ビールを継いでくれた。「仕事の方はよろしく」と言われただけで会話は終わったが、多分この人が一番偉い人だ。それ以降、ボルサリーノを被っていた男と少し歓談した後、またどこかへ颯爽と去っていった。

その後、今日はここから車で少し行ったところの屋敷にある離れに泊まれ。詳しい話は明日話すとボルサリーノの男に言われた。俺もこんなカッコいい帽子を被る男と仕事ができるのかと思い嬉しくなった。

料亭の外に出た。なんの車種か知らないが、私が知っている旧式のクラウンよりずっとリッチな感じな外車に乗った。繁華街を抜けて高級住宅地を少し行ったところで車を降りた。ちょうちんをもった女性の後に続き2人で門をくぐる。白い砂利が敷き詰められた日本庭園を行くと小屋があった。たぶんこれが離れというやつだろう。小屋と言っても、うちの実家よりは遥かに大きい。

夜中に急に目が冷めて、トイレへ行った。こうりゃんなんて慣れない飯を食べたせいだ。お腹が痛い…ため息が漏れる。トイレにこもって腹を擦っていると、外に気配を感じた。何人か離れの周りに人がいる!。なにかやばい気がした。トイレの天井から屋根裏に上がれることがわかった。梁の上で鏡ながら風穴から外の様子をうかがう。ポリタンクからパシャパシャと液体を小屋の外壁にかけている。あれはきっと引火性の灯油かガソリンか何かだ。最後まで否定したい気持ちだったが思った通り火がつけられた。なぜ?考えている暇はなかった。どうやらこの離れ、屋根に出ることもできるらしい。屋根に登るとさらに運がよかった。西の屋根に松の木が伸びており飛び移れそうだ。それから無我夢中で気が生い茂った方へ走った。

お腹が痛くて目が冷めたことで助かった。いろいろな偶然が重なった。運がいい。でも、運がよかったらそもそもこんなことに巻き込まれないよな。いや、ダメだ。背後から人の気配がした。屋根から飛び降りた時に、見つけられてしまったらしい。パーンと乾いた音がしたら腰から胸部に向かって痛みが走って力が入らなくなり地面に突っ伏した。

ああ、どうせなら、ボルサリーノを被った男が言うように、黒毛和牛でも食べておけばよかったな。

俺はバカだなぁ。なんで、こんなときに、こうりゃんじゃなくて黒毛和牛を食べなかったことを悔いているんだろう。これも自由に生きた自己責任の結果かよ。ほんとについてない。

-完-

徒然草2.0
スポンサーリンク
シェアする
gomiryoをフォローする
ごみぶろぐ

コメント

タイトルとURLをコピーしました