ネタバレあり。
『魔性の子』から陽子の転生を経てから高里くんこと泰麒・黒麒麟が自分の使命を自覚して戴国王・驍宗を選び出すというお話。時系列的には、陽子はまだ異世界転生されていないという理解でいいのだろうか。なんか全体的によく分からなくなってきたが。大変良く出来たお話だと思って隠されたベールをめくる気持ちで小野不由美の12国記シリーズを読み進めているところです。
『風の海 迷宮の岸』の出だしは、蓬山の山奥で仙女や女傑・白汕子に囲われてハーレム状態になり大変退屈だった。まあこれは想定される読者が女性(少女)だから、しょうが無いところだろう。蓬莱国から来た例外の麒麟で無ければ仙女が”お母さん”代わりなのだから、当然の待遇とはいえ男性目線だと面白くない。ああこれはもしかしたら「おっさん」の私がただたんに麒麟に嫉妬しているのやもしれない。莫迦な痴れ言を言うてしまった(汗)過酷な運命を背負う麒麟が成長する幼少期には欠かせない時間なのだろうと理解。
女性の観点から言えば黒麒麟を愛でるところかね。
個人的にはやはり自分が少年だかでしょうか、やはり一番なんだか目頭がウルルとしたのは、驍宗や李斎を守るために妖魔・饕餮(とうてつ)とかいう鬼や犬に例えられるヤバいやつとのバトルシーンでしょう。そういえば魔性の子にも出てきたが、ここで使役した妖魔だったんですね。守られるばかりの麒麟が急に成長して、天命をまっとうするために峻立するのには、感動しました。ここが個人的にはツボでした。
そして、なぜだが驍宗が去らせぬために天啓の意に反して彼を王に祭り上げる意思決定をしたところで泰麒が「後悔」の念に悩まれるクライマックスのシーンなんだけど、このへんは麒麟が王を選ぶという絶対的なシステムを全話から重々承知で知っている私からすると「オチが読めていた」気がして、ちょっと微妙だったかな。麒麟が王を選ぶというのは、現実的な話で言えば「結婚」とか「就職」みたいなもので、自分でなんとなく選んでしまったものの、本当にこれでよかったのか?と思い悩む気持ちが生じるのとリンクしている。
自分の人生の選択も結局のところ直感みたいなもので選んできたものでしかないわけで、そこに芽生える後悔をどう処理するか若者だからこそ迷うものなんだろう…ってところに一定の解答を持ってしまっている私からすれば、景麒たちと同じ立場で泰麒の成長を見守るしかない。
つーわけで、全体的に泰麒の成長物語として読める内容だった。
この先にどう『魔性の子』とリンクする出来事に発展していくのか?先の話になりそうだが…なんかもうちょっと面白い感じが欲しいなーと思ってしまうところです。個人的には何だか驍宗が好きになれない無骨な軍人タイプなので、なんで泰麒はこんな王に惚れたんですかね?
麒麟と王様のボーイズラブに突っ込んじゃあダメか…。
あと、最後の方に先の話を読んだ人の「解説」にも似たようなことが書いてあったが、異世界12国の政治システムが、これがよくも悪くも人間の心理に深く根ざした話に発展する構造になっているということ。その辺の「発明」を小説に無理なく組み込んだというところが、このシリーズのすごいところなのだろう。
次の話「東の海神 西の滄海」で延王と延麒の話へと飛ばされるらしい…うーん、あっちこっち読者も違う話に飛ばされるなぁ…ある意味これも異世界転生?個人的には延王と延麒には興味がなく、どっちかつーと、冷たい論理学者タイプの性格である景麒の優しさが垣間見れるお話でよかったのだけどね。個人的には景麒に親近感を覚えますね。
…それなのに、なんでまた違う話に飛ばされるのかな(汗)まあ、面白ければいいのですが。いずれにしても、全体的にシリーズは女性向きだろうけど『風の海 迷宮の岸』はその中でも女性向きと強く感じた。解説にもそう書いてあった。とりあえず次に期待したい。
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