なぜ同じ業種でも財務諸表の構造は微妙に異なるのか?
同じ業種に属していても、企業ごとに財務諸表の構成は少なからず異なることが多い。確かに、業種固有の収益や費用の構造は共通しており、また同じ会計基準に従って作成されるため、一定の類似性は見られる。
しかし実際には、ビジネスモデルの違い、会計方針の選択、資金調達の方法、子会社の有無や連結範囲、さらには企業の規模の違いなどにより、財務諸表には個別性が現れる。
なかでも重要なのは、経営者が事業のどこに重点を置くか?という意思決定が、財務諸表の構造に大きな影響を与えるという点である。
たとえば同じ製造業であっても、ある企業は自社工場をコア・コンピタンスと捉え、設備投資に重点を置く。
一方、別の企業はマーケティングや商品開発を競争力の源泉と考え、広告宣伝費や研究開発費に多くの資金を配分する。
このように、会計上の分類や基準が同じでも、経営の実態や戦略、価値観の違いがそのまま財務諸表の姿に現れるため、同一業種内であっても企業ごとの差異は避けられない。
なぜ経常利益率を比較するのか?
「経常利益よりも営業利益のほうが企業の“本業による稼ぐ力”を表す」と言われることが多い。ではなぜ、経常利益率ランキングというものが存在し、分析の対象となるのか?
経常利益とは、営業利益に加えて受取利息や支払利息、為替差益などの財務活動による損益を含んだ指標である。したがって、経常利益は企業全体として、日常的かつ安定的にどれだけ利益を生み出しているかを表すものと捉えられる。
特に日本では、歴史的に経常利益が重視されてきた背景がある。これは、日本企業が保有資産を活用した財務運用(たとえば、持ち合い株式の配当収入や利息収入など)を経営の一部としてきたことが多かったためである。また、銀行や保険会社、証券会社のような金融業界においては、「営業利益」の定義自体が曖昧または適用困難であるため、業種横断的な比較を行う際には、より共通性のある「経常利益」が使われやすい。
さらに、「経常利益率」という形で売上に対する利益の効率を見ることで、企業の規模に依存しない比較が可能になる。これは、大企業だけでなく中小企業においても、「少ない売上高でどれだけ効率的に利益を出しているか」を評価するために有効である。
とはいえ、製造業や小売業のように本業の収益が明確な業種では、「営業利益率」の方が企業の実力をより正確に表している場合が多い。そのため、実務においては、営業利益率と経常利益率の両方を併せて分析することが望ましい。
業界や業種によっては別の指標により利益率が評価される
また、業界や業種によっては、経常利益率ではなく、より適切な別の指標によって経営評価が行われる場合がある。たとえば、
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銀行業では、資金運用効率を示す「預貸率(預金と貸出のバランス)」や、株主資本に対する利益の大きさを示す「ROE(自己資本利益率)」が重視される。
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保険業では、突発的なリスクへの耐性を示す「ソルベンシー・マージン比率」や、資産運用の成果を示す「運用収益率」が重要な評価指標となる。
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証券業では、営業収益の構成としての「手数料収入の推移」や、マーケットの影響を受けやすい「トレーディング損益」が注目される。
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不動産業では、物件の収益性を示す「稼働率」や、保有資産の価値変動を示す「不動産評価益」などが収益性の判断に使われる。
このように、業種によって収益の構造や収益源が異なるため、業界特有の指標を用いることで、より実態に即した経営分析が可能となる。
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